ILAS-II letters

環境研究所の衛星観測チームにいて、マネージメント作業をしていた。チームは、外部の研究者向けにニュースレターを配布していた。その時の原稿で、数は少ないが重要なマイルストーン毎に記述してある。挨拶はおまけだ。


着任挨拶

環境研究所客員研究官として6月から、衛星観測研究チームに加わりました。News From the ILAS-II Project Leader(June 7,2002)の中で笹野リーダーから紹介があったように、プロジェクトリーダーをサポートするサブリーダーとしての役割です。(財)電力中央研究所の大気科学部に所属しているのですが、週に何日かここ環境研究所にやって来て、プロジェクト進行のお手伝いをしていく予定です。ILASのことを知ったのは1989年頃でしたし、笹野氏とはそれ以前からお付き合いさせて頂いていたので、この衛星観測研究チームの作業も全くの他人仕事という感じはしません。というのもILASが搭載されていたADEOS衛星には私がプロジェクトマネージャとして係わっていたIMG(Interferometric Monitor for Greenhouse gases)も載っていたからです。

ILASは環境省の開発したセンサですが、IMGは当時の通商産業省が開発したセンサでした。ADEOS衛星の事故の後、予算的制約からIMGプロジェクトが中止となってしまったのは、残念なことでしたが、IMGが、世界に先駆けて温室効果気体の三次元分布を出そうという野心的なセンサであったことは記憶してよいことと思っています。

さて、ILASプロジェクトは、熱意のあるサイエンティストの活動によって、多大な科学的成果を生み出すことができました。引き続くILAS−IIプロジェクトも国内外のサイエンスチームの支援を受けてより優れた成果がもたらされることが期待されています。今年中には長い間地上で待機していたセンサがいよいよ軌道上から観測を開始する予定です。このために、衛星観測研究チームの多くのメンバーが、その準備をこなしてきました。

プロジェクトを成功は科学的成果によって計られるものですが、成功に導くためには、科学以外のどちらかと言えばつまらないと思われる程の細かな仕事の積み重ねもまた必要です。このあたりの整理や方向付け、取りまとめ等が私の主要な任務となるでしょう。ILAS-IIを搭載したH-IIAロケットが、無事にあがって欲しいと願っているのはもちろんですが、ILAS/ ILAS-IIと続くプロジェクトの持つ科学的な意義を考えると、何としてもこのプロジェクトを成功させなければいけないと思っております。皆様のご協力をお願い申し上げます。

ところで私事ですが、火曜か水曜あたりにやって来て、金曜には妻と娘二人とで住んでいる東京のはずれ、狛江に戻るという変則的な生活を送っています。もっともそのストレスは、私の好きな浅草周辺の散歩をすることで解消しております。ILAS-IIプロジェクトには、日本各地のメンバーや海外の研究者が参加していますね。ご希望の方がいらっしゃれば、雷門をくぐり仲見世を抜けて浅草寺にお参りし大黒屋で天麩羅を食する、という下町コースをご案内いたしましょう。

NEWSLETTER No.57 (9-17-2002 )


From the HQs : ADEOS-II/ILAS-II 打ち上げカウントダウンへ

ADEOS-II/ILAS-IIの打ち上げは当初2002年2月に予定され、その後2002年10月に延期されていた。NASDAはH-IIAロケット3号機によるDTRS・USERS(データ中継技術衛星/次世代無人宇宙実験システム)の打ち上げ成功を受けて、ADEOS-II/ILAS-IIの打ち上げを2002年12月x日と決定した。ILAS-IIは打ち上げ延期後も定期的なシステムチェックにより当初の性能を維持していることが確認されている。

これに合わせてILAS−IIのデータ解析準備も進んでいる。衛星観測研究チームが運用するDHF(ILAS Data Handling Facility)の処理能力向上のためのハードウェア第一次分整備を完了するとともに、解析アルゴリズムVer.1を完成した。またPIがILAS-IIデータを利用するにあたって必要なデータに係わる定義などを記述したMOU文書はその内容を調整中であり、打ち上げ後直ちにPIとの間で文書の交換を行う予定である。

NEWSLETTER No.57 (9-17-2002 )


From the HQs : ADEOS-II/ILAS-II 打上げ

2002年12月13日、ADEOS-II衛星打上げに先立ち、内外の記者を集めてNASDAとセンサ提供機関のブリーフィングが種子島のNASDA施設内で行われた。NASDA側からH-IIAロケット4号機の準備が順調に進んでいることが説明された後、ADEOS-II衛星に搭載された各センサの提供機関側から、センサの機能やその科学的、実用的意義などが記者団に説明された。

NIES側からは小林プロジェクトサブリーダーがILAS-IIについて説明を行い、ILAS-IIがILASをさらに改良し、分光器を増やして解析対象波長域を拡大する等、着実にILASの成果を引き継ぎつつ、より高度な科学的成果を目指していることを述べた。

12月14日の衛星打上げは天気予報の通り天候は晴れ、スケジュール通りH-IIAロケット4号機が打上げられたことは喜ばしいニュースとして内外に伝えられた。打ち上げ後、環境省、NASDA, NASA, CNESの代表者は内外記者団に対し、ロケット打上げ成功のコメントを発表した。記者会見の内容はテレビ、新聞等を通じて広く報道されたのは読者もよくご存じのところである。

この記者会見後、各センサ側から内外記者団に対して第2回目の記者発表が行われた。ILAS-II側からは、前日と同じく小林が出席して、ILAS-IIの今後のチェックアウト計画、グラウンドセグメントの状況、ILAS-IIデータを使った成層圏研究に対する研究チームの士気の高いこと等を述べた。

NEWSLETTER No.60 (2-3-2003)


From the HQs : ILAS-II 初期チェックアウトおよび早期観測を終了へ

衛星打ち上げから約一ヶ月経過した、2003年1月20日から4日間にわたって、ILAS-II単独の初期チェックアウト(Initial checkout)が行われた。チェックアウトチームは環境研メンバ、地上システム開発メンバ、センサハードウェアの設計製作側メンバにより構成され、この4日間を24時間体制で対応した。1月20日、チームメンバの見守る中、ILAS-IIへのコマンドはNASDAのTACC(中央追跡管制センター)からリアルタイムに次々と送信された。第一の関門である太陽追尾のためのミラーポインティング機能が正しく働いていることが、管制センターのディスプレイに映し出された時、拍手が湧いた。その後、ゲイン設定等各種機能のチェックアウトは予定どおり進み、各分光計の出力や太陽追尾機能は設計通り機能していることが確認された。

本チェックアウトと2月8日の追加チェックアウトにおいて、太陽輪郭センサ(sun edge sensor)が、期待していた機能を果たしていないことが明らかになった。ゲイン設定、太陽追尾センサのオフセット角度調整等、関連すると考えられるセンサパラメータの変更を実施したが、正常機能の回復には至らなかった。

2月12日からは計4日間の早期観測(Early turn on)が実施された。ILAS-IIが成層圏化学種の観測という本来の目的は果たせるとしても、太陽輪郭センサは高精度の観測高度(tangential height)決定に重要な情報を与えるセンサであり、原因の追及が初期チェックアウトに引き続き行われた。地上のEM(Engineering model)も援用して調査した結果、太陽輪郭センサへ光を投射するミラーの役目も果たす視野スリットが、太陽放射により加熱された時に変形し、センサへの光量が部分的に減衰することが分かった。

地上システム側はこれに対応して、太陽輪郭センサを用いない観測高度決定機能を、運用システムに組み込み、3月19日より開始される衛星全体を動作させるシステム総合試験1、4月2日からの総合試験2、および定常運用に対するデータ解析を開始することとした。太陽輪郭センサの挙動解明、この事象による観測データの影響評価は、引き続き実施される予定である。

NEWSLETTER No.61 (5-2-2003)


From the HQs : ADEOS-II、RORR、JPMが開催される

2003年5月20日、NASDA本社において、NASDA、各センサ提供機関(MOE、NASA、CNES)および、データ受信・配布機関(NASA、NOAA)のプログラムレベルの関係者が集まって、MIDOR-II RORR(Operation Readiness Review) が開催された。ILAS-II側からはMOEの代理として、小林と石垣が参加した。RORRは初期チェックアウト(ICO: Initial Checkout)の結果を衛星バス側とセンサ提供機関側が報告し合って、ADEOS-IIを運用フェーズ(NASDA側はAMSRとGLIを念頭において、CAL/VALフェーズと呼んでいる)に移行することを互いに確認する会議である。

ILAS-II側はILAS-II checkout status として、地上解析設備(DHF: ILAS-II data handling facility)の現状、ICOとETO(Early turn on)、システム総合試験1および2におけるILAS-IIの試験運用結果を小林が説明し、ILAS-IIの運用フェーズへの移行準備が完了したことを述べた。同時にGPSR(GPS Receiver)の安定な運用、TMDF(Time difference file)の誤差解消をNASDA側に要求した。

引き続く21日には、MIDORI-II JPM(Joint Program Meeting) が開催された。この会議は各センサ提供機関がCAL/VAL計画やデータ利用について報告するものである。ILAS-II側はILAS-II validation and science status のタイトルで、大気球やオゾンゾンデ等を用いたvalidation 実験のスケジュール(図1)やサイエンスチームの現状、データ配布計画等を説明した。

NEWSLETTER No.62 (7-7-2003)


From the HQs : ILAS-II衛星データ提供はじまる

2003年7月14〜16日に開催されたILAS-IIサイエンスチームミーティングに先立ち、7月1日よりサイエンスチームメンバーに向けてILAS-IIデータの提供が開始された。開始されたデータの解析プログラムバージョンは1.0xである。現在、接線高度等の精度を向上させたバージョン1.2が準備中であり、間もなく(今年10月以降)提供を開始できると考えている。現在、ILAS-IIチームのデータ解析システムであるDHFは、3つの異なるバージョンの解析処理プログラムを同時に実行できる能力がある。新規のバージョンが完成され次第、ILAS-IIの観測データは新規バージョンで直ちに提供されると同時に古いバージョンで解析済みのデータも逐次、新規バージョンで再解析、提供される計画である。他衛星の成層圏化学種データも続々と公開されつつあり、ILAS-IIチームもこれに合わせてデータ提供に努力したい。

NEWSLETTER No.63(9-19-2003)


From the HQs : プロジェクト方針を堅持

ADEOS-II (MIDORI-II)の電源系統の故障以来、衛星運用の停止状態が続いているが、ILAS-II側のプロジェクト方針に大きな変更はない。一方、2004年3〜4月に予定されていた大気球を用いたILAS-II検証実験は、残念ながらキャンセルせざるを得なかった。NIESがサポートするILAS-IIプロジェクトは、当初予定通り、2005年度まで継続される予定である。この計画に則り、我々は引き続きILAS-IIデータ解析アルゴリズムの改善を進め、これを反映した解析データをサイエンスチーム及び、一般向けにリリースする予定である。

また昨年募集したLate Proposalに応募した新規サイエンスメンバーを、間もなくサイエンスチームに迎えることとなっている。次回のサイエンスチーム会議の開催についてもプロジェクトの事務局において準備を開始した。今後の計画予算の見直しは避けられないと考えられるものの、これまで取得されたILAS-IIデータの価値に変わりはなく、より多くの科学的成果を得るためにプロジェクトチームは、一層の努力をする決意である。

NEWSLETTER No.65(2-13-2004 )


離任の挨拶

2002年6月から、ILASプロジェクトをサポートするサブリーダーとして、このプロジェクトに参加してきましたが、2004年3月を以て、元の電力中央研究所に戻りました。

今、過去のニュースを捲り返してみると、こんな風に就任の挨拶を書いていました。「プロジェクトを成功は科学的成果によって計られるものですが、成功に導くためには、科学以外のどちらかと言えばつまらないと思われる程の細かな仕事の積み重ねもまた必要です。このあたりの整理や方向付け、取りまとめ等が私の主要な任務となるでしょう。ILAS-IIを搭載したH-IIAロケットが、無事にあがって欲しいと願っているのはもちろんですが、ILAS/ ILAS-IIと続くプロジェクトの持つ科学的な意義を考えると、何としてもこのプロジェクトを成功させなければいけないと思っております。皆様のご協力をお願い申し上げます」。

2002年12月14日、H-IIAロケット打ち上げ成功に立ち会えたのは、私個人としても非常に嬉しい体験でした。しかし、ILAS-IIプロジェクトに加わって直ぐに、全体計画と同時に簡単なコンティンジェンシー・プランを作っておいたのですが、そのプランをまた引き出すことになるとは、思いもよりませんでした。2003年10月25日、電話で衛星との通信途絶の連絡を自宅で受けた時の衝撃は忘れもしません。ILAS‐IIの各種軌道上試験と運用開始後の、様々なアクシデントや問題点をチームが一丸となってクリアしつつ、国内外のサイエンスチームの支援を受けて、より優れた成果が生み出されようとした矢先の出来事であり、残念としか言いようがありませんでした。

しかし、衛星の停止までにもILAS‐IIからは貴重なデータが得られていました。衛星観測研究チームの多くのメンバーの協力で、今も着々と成果があがりつつあります。プロジェクト途中でチームから離れるのは、心残りではありますが、チームメンバの力で今後とも、素晴らしい結果が出る事を期待しております。

小林博和。現在、財団法人電力中央研究所CS推進部実用化展開チーム/宇宙航空研究開発機構地球観測利用推進センター非常勤主任研究員

NEWSLETTER No.66 (8-13-2004)